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竹下文子著「木苺通信」(ポプラ社)を読む。

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目次(文字数:5000字前後)

「風町通信」に続くリニューアル版、第2弾

児童文学作家である竹下文子さんが「木苺通信」という書籍を、昨年の12月に発売した。

(P[た]1-2)木苺通信 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[た]1-2)木苺通信 (ポプラ文庫ピュアフル)

 

内容紹介

「トプ、願いごと、した?」
「したよ」
「どんなこと?」
「同じこと」
木苺谷に住む私と狼トプの、少し不思議で優しさに満ちた日々。〈香草採り〉〈星祭りの夜〉〈木琴森〉〈鏡の泉〉……うつりゆく四季の中、静かな森の暮らしが美しく詩的なモチーフで綴られる。どこか懐かしく癒されるひとときのファンタジー! 短編二十五編を収録。

実はこの書籍、1989年に一度出版されている。

 

個人的な感覚ではあるが、

過去に出された書籍が、およそ30年の時を経て再び出版されるというのは、

非常に稀な事であるようにも思う。

 

竹下さんは、これまで物凄い数の児童向けの作品を世に発表しているし、

彼女の絵本で育った読者達も相当数いるはずだ。

しかし、以前に偕成社より出版された「木苺通信」は、

現在ではプレミア価格がついていて気軽に読める書籍ではなくなっていた。

 

今回、ポプラ社で文庫サイズとして発売されたのは

素晴らしい英断だった様に思う。

 

もちろん、ビジネスではあるので売上も見込んでの事であろう。

実際「木苺通信」再版の話を聞いて喜ぶ人も多く、

ファンの間でも盛り上がりを見せている。

↑こちらの方は、以前の「木苺通信」を所有していていつつも、

今回、あらためて買い直している。

長年、竹下さんの作品を愛読されているのがわかる。

 

読んで見た感想 

先日、この作品を読了したので、

ほんのちょっとではあるが、感想等を書いていきたいと思う。

あらすじ等について

「木苺通信」は、「木苺谷」に住む「私」のそこでの暮らしを

25のストーリーに分けて描いた短編集である。

 

始まりは桜の林の下、主人公である「私」は

ふるふると優しく鳴る電話のベルの音を聴く。

 

あたりには電話は見当たらず、誰がどこからかけているのか?

ひとひらも散ってはいない、今が旬の桜を眺めながら、彼女は考える。

もしかしたら、声だけは知ってるけど、ずっと会ってなかった様な

名前をすぐに思い出せないような人からの電話なのかも…?と…

 

物語は、主人公の女性が電話を取るところで一話目が終了する。

その電話がどこにあったもので、「私」がどうやって受話器を取ったのか?

果たして電話の主は誰だったのか?くわしい情報は描かれてはいないし、

第二話目はその続きですらないから、もはや想像するしかない。

 

ひょっとしたら、電話は桜の林の途中に無造作に置いてあったのかも知れないし、

電話と言うのは何かの形容で、「虫の知らせ」とか「風の便り」的な

感覚的なモノが「電話」という表現になっていただけなのかも知れない。

正解はもちろんわからない。

 

ちょっと放っておかれる様な、置いていかれてそのままにされる様な、

そんな「唐突感」とでも言うべきモノを、この作品にはたびたび感じる事がある。

 

しかし、私が気になるようなそういう細かい部分は、

「勝手に想像してかまいませんよ、それはきっと正解ですから」

と言う、作者である竹下さんからの無言のメッセージなのだと思う。

もちろん、そんな私の独断的な考えすらも正解であるかどうかはわからない。

 

もはや正解かどうかなんて言う事すらも、実はどうでも良い事なのかも知れない。

なぜなら、作者さんの気持ちをそのまま伝えたかったら、

そのまま事細かに描いているはずだから…

 

私は、この第一話を読んで、

とても壮大な森林の壮観を、太陽の恵みを受け力強く咲いている桜の木々を想像し、

そしてそのイメージを思い浮かべた時、ポジティブな感覚に浸れた。 

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大切なのは読者である自分も、この「木苺谷」の風景や生活を想像してみる様な、

ほんのちょっとの「想像力」が必要なのだ。

文中に全てが説明されてるワケでもないので、読者の中には少し違和感を感じる方も存在するかも知れない。

 

「ファンタジーだから」と言えばそれまでなのかも知れないが、

竹下さんが伝えたいのは、そうした「辻褄合わせ」の部分ではないと感じる。

自然の美しさ、季節の移ろい、その中で生きる人々。

そこに読者の想像が合わさることで、それぞれのイメージで、

様々な解釈で受け取れる作品になっているのだと思う。

 

「木苺通信」は25の短編からなるストーリーではあるが、

一つ一つの物語には特に繋がりはない。

 

なので、どこから読んでも構わない自由度がある作品ではあると思う。

とは言え、最初のページから読むほうが作者さんのプロット構成に基づいている筈なので、

特に差し支えなければ、そのまま読み始める事をお勧めする。

 

世界観について

以前に出版された「風町通信」とは違う舞台なのかも知れないが、

世界観は共通してるのかも知れない。

 

ジャンル的にはファンタジーではあると思う。

「金曜日は船の日」というエピソードでは、

願いを込めた紙の折り船を丘の風に乗せていっせいに飛ばし、

色とりどりの紙の船が出航していく…

この作品にはそうした、心まで鮮やかになっていくような場面がいくつもある。

 

けれど、主に描かれているのは少し変わった世界で暮らす、

普通の人間の普通の暮らしだ。

そこには、現実に生きる私達にも当てはまる様な切なさや闇を感じる話もあったりする。

 

「冬の魚たち」というお話では、かつて人気だった水族館で働いていた老人が出てくる。彼は当時を思い出し、冬になると既に閉鎖されたその場所へ足を運ぶと言う。

それは彼にとって、救いなのか絶望なのかはわかる由も無いが、

ちょっと胸を締め付けられるストーリーなので、興味のある方はぜひ読んで欲しい。

 

人と人とが対等

この作品で印象的だったのは、

「人と人、さらには動物にいたるまでみんな対等であること」だ。

 

特に印象的だったのは「水の王国」というエピソードに出てくる「王様」だ。

彼はボートを浮かべて、おそらくは一般人(?)であろう主人公の女性と一緒に湖へ進むのだ。

オールを漕ぐのも王様、釣った魚を捕るのも王様、料理をするのも王様。

身分の違いも気にせずに、彼は女性と対等に話している。

 

この話だけではなく、作品にでてくる多くの人達は、

どんなに身分や立場に差があれど、皆、対等なのだ。

そこは個人的には非常に羨ましい世界にも思えて来る。

 

現実社会を見れば、ほぼ対等な事などはない。

年齢差、男女差、できる者とできない者、持つ者と持たざる者の差、etc...

 

能力のある人が無い人をバカにするように、

お金持ちが貧乏な人を見下すように、

誰かとどこかで差があるだけで、人は自分を上に見てしまう。

死んだら自慢のお金も能力も無に帰してしまうのに…

 

それは人間の中にも流れる「弱肉強食」の本能のせいなのかも知れないが、

こうした個人的な思想も相まって、

「木苺通信」で登場する人々達の、お互いに対する対等さが

真に理想の人間関係ではないか?と、もはや憧れとでも言うべき感情で

この世界観を見てしまうのだ。

 

と、ちょっと個人の強すぎる感情が混ざってしまった形で感想を述べてしまったが、

基本的にはとてもほんわかした温かい小説であるので、

ご興味のある方は、ぜひ読んで頂けたらと思う。

 

イラストは「風町通信」に続き初見寧さんが担当

今回のポプラ社のリニューアル版では、表紙や挿絵のイラストも一新されている。

文庫版としては前作にあたる「風町通信」でも担当を請け負った

初見寧(はつみねい)さんだ。

 

当ブログをお読み頂いている方なら、彼女の事を何度か記事に書いた事もあるし、

ご存じの方も多いかも知れない。

 

彼女は本当に素敵な絵を描く。

緻密でありつつも柔らかく、描かれてない筈の枠の外にまで

その世界の奥行きをハッキリと認識できるような描き方、

そして何よりも、温もりや優しさを感じさせる様な、とても魅力的な絵だ。

 

今回の「木苺通信」でも、その実力は遺憾なく発揮されている。

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中央にいる動物は狼のトプ。

主人公と同じく木苺谷の住人で、割と気ままな性格だ。

表紙では、そんな彼(彼女)?の孤高な感じが表現されている。

その横にはさりげなく、この作品の象徴的存在でもある木苺。

 

例えば、想像してみる。

このアングルだと狼のトプを見ているのは主人公の女性なのかも知れない、と…

森の中からそっと隠れ見ているような、それでも優しい視線を感じてしまうのは私だけだろうか?

 

もっと想像してみる。

左下、遠くに見える家からは煙が流れているから、

もしかしたら、あの家は主人公の家で、ちょうど今、料理をしている最中なのかも知れない。

それを狼のトプは遊びながらヒマを潰し、それでもまだ料理ができないから、

あの丘でお腹を空かせながら、静かに待っているのかも知れない。

 

きっと正解はない、けれど想像の数だけみんな正解なのだろう。

彼女の絵には様々な解釈を受け入れてくれる包容力があると感じる。

 

この「木苺通信」でも驚くほど多くの魅力的な挿絵が使われている。

それぞれのエピソードにおいての象徴的なモノが描かれているので、

ぜひ一つ一つを味わって欲しいと思う。

 

帯の推薦文は手嶌葵さん

書籍、特に文庫本には、帯が付くのが通例となっている。

今回の「木苺通信」では、歌手の手嶌葵(てしま あおい)さんの推薦文が書かれている。

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「小さい頃から歌っている大好きな歌の様に愛おしく、懐かしい香りのする物語です。」

手嶌さんらしい、とても可愛い推薦文であり

この「木苺通信」を言い得て妙と言えるくらいに適確な表現をされていると思う。

そう、この作品は「懐かしい歌」にも似ているのだ。

 

「懐かしい」とは逆に言えば「それまで忘れていた」とも言えると思う。

自分もどこかで経験したはずなのに、

忘れたくはなかったけど忘れてしまっていて、

それでも心のどこかではずっと覚えていて、

一度きっかけがあれば、まるで昨日のように歌い出せるし思い出があふれ出る。

「木苺通信」もまた、そんな感覚をもたらしてくれる作品の一つなのだ。

 

手嶌さんは「風町通信」「木苺通信」の2冊をyoutubeにおいても紹介しているので、

ご興味のある方は、ぜひともご覧になって欲しい。

あくまでも個人的な感覚ではあるが、

竹下文子さん、初見寧さん、手嶌葵さんの作り出す世界観は、

それぞれジャンルは違えども、どこか共通したものがあるように感じる。

 

お三方のどの作品にも「憂い」にも似た様な、「喜び」にも似た様な、

今、自分の感情はこうである!と断定できない抽象的な感覚を

呼び覚まさせる部分がある事において、私は非常によく似ている様に思うのだ。

 

まとめ:読めば心のどこかの懐かしさを呼び起こす、そんな作品。

と言うわけで、

今回は「木苺通信」を紹介させていただきました!!

(↑急に「です・ます」調になります…)

 

この書籍は読んだ方それぞれの童心を呼び覚ましてくれる様な

そんな温かい物語です。

 

惜しむらくは…

電子書籍でも出してくれたら良かったのに!!!

とは思うんですけどね…

 

ただ、そうなると挿絵部分はレイアウトが崩れちゃったりするので、

スキャンによる画像取り込み型の電子書籍スタイルになったと思うので

ちょっと難しかったかも知れませんが…

 

「木苺通信」の他、竹下文子さんは数多くの書籍を出版されてますので、

ぜひぜひチェックしてみて下さい!!

www.amazon.co.jp

 

また、同じく竹下さんの執筆した「風町通信」についても

記事を書かせて頂いてますので、合わせてお読み頂けたら幸いです。 

marukudo.hatenablog.com

 

以上です…