心をえぐられる社会派ミステリー!
こんばんは!まるく堂です!
最近、映画化されて話題の「護られなかった者たちへ」の原作本を読了しました。
誰もが口を揃えて「人格者」だと言う、仙台市の福祉保険事務所課長・三雲忠勝が、身体を拘束された餓死死体で発見された。
怨恨が理由とは考えにくく、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。
しかし事件の数日前に、一人の模範囚が出所しており、男は過去に起きたある出来事の関係者を追っているらしい。そして第二の被害者が発見され――。
社会福祉と人々の正義が交差したときに、あなたの脳裏に浮かぶ人物は誰か。
この書籍は「さよならドビュッシー」「連続殺人鬼 カエル男」等で知られる中山七里(なかやま しちり)さんが執筆した社会派ミステリーです。
Kindleで読んだのですが、読了まで6~7時間くらいかかったと思います。
あらすじとしては、
舞台は震災から復興しつつある仙台市。
福祉保険事務所で課長を務める「三雲」と言う男性が殺害されたところから物語が始まります。
その死因はナント「餓死」。今や廃墟と化したとあるアパートで、手足を縛られたまま放置されると言う残忍極まりない方法で殺されるのです。
宮城県警捜査一課に属する刑事「笘篠(とましの)」は、この事件を担当することになります。その残虐な殺害方法から怨恨の線を調べますが、被害者の同僚や知人の誰一人彼を悪く言う人はおらず捜査は難航。しかし数日後、また新たな殺人事件が起きて…
と言う感じです。
この小説で大きなテーマとなっているのが「生活保護」なんですね。
主人公の「笘篠(とましの)」は事件を捜査していく内に、この「生活保護」の制度が事件に深く関係していく事に気づきます。
物語の前半部分はこの「生活保護」制度の実態を中心に描かれています。
笘篠は捜査のため、福祉保険事務所のとある職員と同行して実際に生活保護を受けている人たちに会いに行くんです。
生活保護を受け取る場合は、その金額以上を稼いではいけないらしく、発覚すると生活保護自体が取り消しになる様です。笘篠が会ったあるシングルマザーは隠れてアルバイトをしていたのですが、それは娘の学費のためでした。生活苦の中、他のクラスメイトと差が出ない様、その一心でした事ですが、同行した職員は気持ちはわかるとしながらも、それは違反だとして生活保護の打ち切りを告げます。
次に同行した家には、高級車が置いてありその男性もどうみても反社の人の様です。
刑事の笘篠を同行したおかげで、職員は生活保護の打ち切りを告げることができましたが、その後、職員は笘篠に「生活保護」制度が利用され反社組織の資金源にもなっていると語ります。
物語自体はもちろんフィクションではあるのですが、現実に起きた出来事(例えば10年ほど前にとある芸人の母親が生活保護を受給してたことや、生活保護が受けられずに「おにぎり食べたい」と書き残して亡くなった事件等)もリンクさせているんです。なので、おそらくはこういう事は現実に起きているのだろうと想像させられてしまいます。
本当に生活保護が必要な人はいるのに、国からの補助を恥や迷惑と考え申請しなかったり、逆に申請しようと思っても年齢的な問題だったり音信不通の親族がいることで書類に必然的に不備が生まれ拒否されてしまったり、さらに福祉事務所は福祉事務所で生活保護の予算を削減されて必然的に切り捨てざるを得ない人が出てきたり等、この小説では生活保護の実態がハンパ無いリアリティで描かれているので、ページを進めるごとに心が沈んで行くような感覚に陥りました…
なので、前半は少し読むスピードが遅かったのですが、後半に進むにつれてその犯行がなぜ行われたのか等の真相が明らかになってきて読むのが止められなくなりましたね。
ミステリーとしてもちゃんと楽しめる作りになっています。
ただ、テーマがテーマなので読了後も何か引きずっちゃう感じがしばらく抜けませんでした…
「護られなかった者たちへ」は10月1日より映画も公開されています。
「笘篠(とましの)」役を阿部寛さん、そしてもう一人の重要人物「利根(とね)」を佐藤健さんが演じています。
原作とちょっとキャラクターにも変更がある様ですが、実力派揃いのキャスティングなのでこれはこれで楽しめると思います。
あの重いテーマを134分の映画の中でどのように取り扱い、エンタメとしてもどのように昇華させるのでしょうかね?もちろん原作の全てを表現はできないと思うのですが、そこは監督の腕の見せ所だと思います。
もしも映画を見たら、ぜひ1度原作の方も挑戦してみる事をオススメします。
以上です…